はじめに
2025年に施行される新たな排ガス規制は、日本の二輪車業界に大きな影響を与えると予想されます。この規制は、欧州連合(EU)で提案された自動車の排出ガス規制「ユーロ7」に対応するためのもので、二輪車にも「排出ガスを浄化する装置」の劣化を監視する機能である車載式故障診断装置(OBDⅡ)の搭載が義務付けられます。
この記事では、2025年施行の排ガス規制とは何か、ユーロ7とは何か、日本の二輪車業界の市場規模と動向、2025年施行の排ガス規制が二輪車業界に及ぼす影響、二輪車業界が取り組むべき課題と対策について解説します。
2025年施行の排ガス規制とは何か
2025年施行の排ガス規制とは、日本の国土交通省が2020年12月に発表した、自動車の排出ガス規制の改定案です 。この改定案は、EUで提案された自動車の新たな排出ガス規制「ユーロ7」に対応するためのもので、2025年から施行される予定です。
ユーロ7は、現行のユーロ6に比べて、排出ガスの基準値を大幅に厳しくするとともに、実走行排出ガス試験(RDE)の導入や、排出ガスを浄化する装置の劣化を監視する機能である車載式故障診断装置(OBDⅡ)の強化などを求めています。
日本の改定案では、ユーロ7に準拠する形で、四輪車だけでなく、二輪車にもOBDⅡの搭載が義務付けられます 。これは、二輪車の排出ガス規制が世界的に厳しくなる傾向にあることや、二輪車の排出ガスが都市部の大気汚染に影響することなどを考慮したものです
ユーロ7とは何か
ユーロ7とは、EUで提案された自動車の新たな排出ガス規制です。ユーロ7は、現行のユーロ6に比べて、排出ガスの基準値を大幅に厳しくするとともに、実走行排出ガス試験(RDE)の導入や、排出ガスを浄化する装置の劣化を監視する機能である車載式故障診断装置(OBDⅡ)の強化などを求めています。
ユーロ7は、2025年から施行される予定で、ガソリン車やディーゼル車だけでなく、電動車やハイブリッド車にも適用されます。
ユーロ7の目的は、自動車の排出ガスによる環境への影響を最小限に抑えるとともに、自動車の性能や安全性を向上させることです。ユーロ7は、EUの気候変動対策の一環として、自動車の二酸化炭素(CO2)排出量の削減にも貢献することが期待されています。
日本の二輪車業界の市場規模と動向
日本の二輪車業界は、世界的にも高い技術力とブランド力を持つ産業です。日本の二輪車メーカーは、ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキの四大メーカーをはじめとして、多様なニーズに応える製品を開発・販売しています。
日本の二輪車の国内生産台数は、2020年には約60万台となり、前年比で8.8%減少しました。この減少は、新型コロナウイルスの感染拡大による生産活動の停滞や需要の低迷が主な要因です。
一方で、日本の二輪車の輸出台数は、2020年には約350万台となり、前年比で1.9%増加しました。この増加は、アジアや北米などの海外市場での需要の回復が主な要因です。日本の二輪車業界は、国内市場では厳しい状況にある一方で、海外市場では競争力を維持しています。
2025年施行の排ガス規制が二輪車業界に及ぼす影響
OBDⅡの搭載が必要となる二輪車の種類と費用
2025年施行の排ガス規制により、二輪車にもOBDⅡの搭載が義務付けられます 。OBDⅡとは、排出ガスを浄化する装置の劣化を監視する機能で、故障や不具合が発生した場合に警告灯を点灯させる仕組みです。
OBDⅡの搭載は、二輪車の環境性能の向上や安全性の確保に寄与するとともに、整備や修理の効率化や品質の向上にも貢献すると期待されています。しかし、OBDⅡの搭載には、二輪車の種類や排気量によって異なる費用がかかります。
試算によると、OBDⅡの搭載には
の費用がかかると見込まれています。
OBDⅡの搭載による費用負担は、二輪車の種類や排気量によって大きく異なりますが、特に原付二種や小型二輪車では、価格の上昇や購入意欲の低下につながる可能性があります。
現行モデルの生産終了や価格上昇の可能性
2025年施行の排ガス規制により、二輪車の排出ガス基準値は、現行の平成28年基準から平成30年基準に引き上げられます。平成30年基準は、平成28年基準に比べて、窒素酸化物(NOx)や炭化水素(HC)の排出量を約半分に、一酸化炭素(CO)の排出量を約3分の1に厳しくするものです。この基準値の引き上げに対応するためには、二輪車のエンジンや排気系の改良が必要となります。
しかし、すべての二輪車が改良に対応できるとは限りません。特に、旧型の二輪車や低価格帯の二輪車は、改良にかかるコストが高く、採算が取れない可能性があります。
そのため、2025年施行の排ガス規制により、一部の二輪車の生産終了や価格上昇が予想されます。生産終了や価格上昇が起こると、二輪車の選択肢が減少し、需要が減少する恐れがあります。
二輪車の需要減少や環境負荷の増加の懸念
2025年施行の排ガス規制により、二輪車の価格が上昇すると、二輪車の需要が減少する可能性があります。二輪車の需要が減少すると、二輪車業界の売上や利益が減少するだけでなく、二輪車の社会的な役割も低下する恐れがあります。二輪車は、自動車に比べて、燃費が良く、駐車場所を取らず、渋滞に巻き込まれにくいという特徴を持ちます。そのため、二輪車は、交通の効率化や環境の改善に貢献する乗り物として、多くの人に利用されています。
しかし、二輪車の価格が上昇すると、二輪車の購入や維持が困難になり、二輪車の利用者が減少する可能性があります。二輪車の利用者が減少すると、交通の混雑や環境の悪化が進む可能性があります。
また、二輪車の需要が減少すると、二輪車の更新サイクルが長くなり、古い二輪車が長く走り続ける可能性があります。古い二輪車は、新しい二輪車に比べて、排出ガスの量が多く、環境に悪影響を与える可能性があります。このように、2025年施行の排ガス規制により、二輪車の需要減少や環境負荷の増加が懸念されます。
二輪車業界が取り組むべき課題と対策
環境性能の向上とコスト低減の両立
2025年施行の排ガス規制に対応するためには、二輪車業界は、環境性能の向上とコスト低減の両立を図る必要があります。環境性能の向上には、エンジンや排気系の改良やOBDⅡの搭載などの技術的な取り組みが必要です。
しかし、これらの取り組みには、開発や生産にかかるコストが増加するという課題があります。コストの増加は、二輪車の価格の上昇や利益の減少につながる可能性があります。そのため、二輪車業界は、コスト低減のための取り組みも必要です。
コスト低減のための取り組みには、共通部品の活用や生産効率の向上、部品の再利用やリサイクルなどの環境配慮型の取り組みが考えられます。これらの取り組みは、コストの削減だけでなく、資源の節約や廃棄物の削減にも貢献すると期待されています。
電動二輪車やコネクテッドバイクの開発と普及
2025年施行の排ガス規制に対応するためには、二輪車業界は、電動二輪車やコネクテッドバイクなどの新しい技術やサービスの開発と普及にも取り組む必要があります。電動二輪車とは、電気を動力とする二輪車で、排出ガスがゼロであるとともに、静音性や低維持費といったメリットを持つ乗り物です。電動二輪車は、環境に優しいだけでなく、走行性能やデザイン性も高いものが多く、若者や女性などの新たな需要層にも訴求する可能性があります。
しかし、電動二輪車には、充電インフラの不足や航続距離の短さといった課題もあります。そのため、二輪車業界は、電動二輪車の性能や機能の向上や、充電ステーションの整備や共有などのサービスの提供にも取り組む必要があります。
コネクテッドバイクとは、インターネットやスマートフォンなどと連携する二輪車で、ナビゲーションや音楽再生、故障診断や遠隔操作などの機能を持つ乗り物です。コネクテッドバイクは、利便性や安全性の向上や、ライフスタイルの豊かさや楽しさの提供に貢献すると期待されています。
しかし、コネクテッドバイクには、セキュリティやプライバシーの保護や、法規制や規格の整備といった課題もあります。そのため、二輪車業界は、コネクテッドバイクの技術やサービスの開発や、社会的な受け入れや信頼の確保にも取り組む必要があります。
サブスクリプションやシェアリングなどの新しいビジネスモデルの展開
2025年施行の排ガス規制に対応するためには、二輪車業界は、サブスクリプションやシェアリングなどの新しいビジネスモデルの展開にも取り組む必要があります。サブスクリプションとは、定期的に料金を支払うことで、二輪車や部品やサービスなどを利用できる仕組みです。
サブスクリプションは、二輪車の購入や維持にかかるコストや手間を減らすとともに、最新の二輪車や部品やサービスを常に利用できるというメリットを持つ仕組みです。サブスクリプションは、二輪車の所有から利用へのシフトに対応するとともに、二輪車業界の収益源の多様化や安定化に貢献すると期待されています。シェアリングとは、二輪車や部品やサービスなどを複数の人が共有する仕組みです。
シェアリングは、二輪車の利用率や効率を高めるとともに、二輪車の需要や供給のマッチングを促進するというメリットを持つ仕組みです。シェアリングは、二輪車の所有から利用へのシフトに対応するとともに、二輪車業界の新たな顧客層の獲得やコミュニティの形成に貢献すると期待されています。
まとめ
2025年施行の排ガス規制は、日本の二輪車業界に大きな変革を迫るものです。二輪車業界は、環境規制に対応しつつ、利便性や魅力を高める取り組みが必要です。二輪車業界は、環境性能の向上とコスト低減の両立や、電動二輪車やコネクテッドバイクの開発と普及や、サブスクリプションやシェアリングなどの新しいビジネスモデルの展開に取り組むことで、2025年施行の排ガス規制に対応することができます。二輪車業界は、所有から利用へのシフトに対応するとともに、二輪車の価値や可能性を高めることができます。
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